原発賠償請求プロジェクトチーム結成に当って
三月十一日の東日本大震災・東電原発事故を機に、福島県民は、十字架を背負うことに―――。
混乱が落ち着いてきた四月頃から事業再開に向け立ち上がってきた顧問先の社長さん達がいました。新たな店舗の確保・資金繰り・融資・助成金交付等々の問題が山積ですが、やはり最後は、原発損害賠償がどうなるのか非常に気掛りのようです。そして相談では、「被害額の算定が出来ない・交渉事は煩わしい・書類作成が面倒」などの悩みで一杯という現実が浮き上がってきました。
そこで、私ども会計事務所がお役に立つことと考え、プロジェクト結成です。精一杯、頑張ります。ご利用下さい。
東京電力が確定した原発事故に係る補償金の算定基準(平成23年8月30日)
| 損害の態様 |
補償基準の主な内容
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1.避難費用
2.帰宅費用
3.一時立入費用 |
原発事故が発生した後に、避難等対象区域内から同区域外へ避難のための立ち退き及びこれに引き続く同区域外滞在を余儀なくされた方などの下記の費用
○避難等の交通費 … 原則 1回あたり 5,000円/1人
○宿泊費及び宿泊に付随して負担した費用 … 原則 1泊あたり 8,000円/1人を上限
○家財道具の移動費用 … 同一都道府県内の自家用車による移動
原則 片道1回あたり 5,000円
○除染費用 など … 原則 1回あたり 5,000円 |
| 4.生命・身体的損害 |
避難等を余儀なくされたために傷害を負い、健康状態が悪化し、疾病にかかり、あるいは死亡された避難等対象者。または避難等を余儀なくされたために、健康状態の悪化等を防止するため、医療費等を支払った避難等対象者の下記の費用
○医療費 … 原則、実費
○交通費 … 公共交通機関を利用の場合、原則1回あたり 5,000円/1人
○宿泊費 … ※避難等費用の基準に準ずる |
| 5.就労不能等に伴う損害 |
避難対象区域に住居又は勤務先がある方のうち、避難等によって就労が困難となり、給与等の減収が生じた方
○就労不能等による給与等の減収分+追加的費用
(従前の平均収入-現在の実収入)+転居費用等を支払う |
| 6.避難生活等による精神的損害 |
避難等対象者について、以下の金額を支払う
○平成23年3月11日から平成23年8月31日までの避難分として
10万円/月 或いは12万円/月
○平成23年9月1日から平成24年2月29日までの避難分として
5万円/月
※その後については、事故の収束状況を踏まえて検討の予定 |
7.検査費用
(人) |
避難等対象者の内、原発事故が生じたことにより健康診断費用、放射線検査費用等を負担した方
○健康診断 … 1回当り8,000円
○放射線検査 … 1回当り15,000円
○交通費、宿泊費 … 生命・身体的損害の基準に準ずる |
8.検査費用
(物) |
避難等対象区域内の財物の所有者で、当該財物について以下の検査費用を負担された方
○放射線検査 … 1回当り17,000円 ※原則として1回分を対象とする |
| 9.財物価値の喪失又は減少等 |
避難等対象区域内の財物の所有者で、原発事故に関して当該財物の価値が喪失または減少した方 ▼
警戒区域の解除がされていないこと、被害を受けられた方々の財産状況の確認や想定が難しいことなどから、継続的に検討を行った上で、改めて案内する予定 |
10-1.
営業損害
(法人・個人・林業を含む)
(農業)(漁業) |
避難等対象区域内において、平成23年3月11日時点で事業を営んでおり、避難等により損害を被った法人・個人事業主(林業を含む)
○避難指示等に伴う減収分+追加的費用
(過去の資料に基く粗利-支払いを免れた固定費、変動費)×本年度の減収率+追加敵費用
※過年度における実績(決算書等)で算定する ※避難等による減収分に限る |
10-2.
風評被害
間接被害 |
避難等対象区域外において平成23年3月11日時点で事業を営んでおり、原発事故を原因とする風評被害、間接被害により損害を被った法人・個人事業主(製造・加工・観光・サービス業等)
○補償金額=逸失利益+検査費用+追加的費用 |
上表のように東電からは補償金の算定基準が示されはしましたが、この内容に対しては疑問を抱く部分もあると思われます。そこで、いくつかの項目についてエヌエムシイ税理士法人としての解釈を付け加えるとしますので、参考にして下さい。
賠償対象は原発事故との因果関係
国も東京電力も、今回の原発事故と相当因果関係内にある損害については原子力損害に含まれ、賠償の対象となるとしていますが、津波や地震等の自然災害に因るものに対しては賠償請求の対象外であるとしています。
ならば、津波や震災の被害があっても、
「原発事故により避難を余儀なくされて事業を停止した」
「復旧が遅れた等により利益を得る機会を逸した」或いは
「避難費用や事業所の移転費用等、本来支払う必要のない費用が発生した」
など、原発事故との因果関係を見つけて損害を立証すべきと考えます。
※『相当因果関係』…社会通念上、当該事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲。
領収証の無い費用はダメなのか?
避難費用や検査費用等の請求については、支払いをした際の領収証や診断書の添付を義務付けています。しかし、震災直後の原発事故で皆さんが混乱していた中、領収証などの資料を紛失してしまった方も多かったはずです。
では、それらの資料がない場合は認められないのかと言うと、答えは無くてもよいのです。ただ、請求金額の計算根拠は必要であると思われますので、記憶を基に、支払った年月日・金額・相手・用途などを記録ノートに細かくメモして準備しておくべきでしょう。
また、基準額を超えた支出があった場合でも、具体的な事情が証明できれば、補償される可能性は十分あると考えられます。
精神的損害の基準
精神的な損害や苦痛は、各人の抱えている条件や問題、事故発生以降の状況等が様々である以上、決して一律ではないはずです。一応、現時点での基準額が示されていますが、今後、避難状況が更に長期化するなどの事態となってくれば、基準金額の変更も十分考えられます。
また、特殊な事情により精神的に大きな損害を受けていると感じている場合は、その内容を請求額に反映して交渉することも必要かもしれません。
財物の損害についての補償は?
避難区域内に置いたままで管理不能となった営業資産(機械、車輌類)や商品、原材料について、喪失した価値相当分とその処分費用も賠償対象となるとされていますが、現時点(平成23年10月1日)においては、避難対象区域への立入りが制限されており、これら財物の被害状況を正確に確認することが困難であるとの理由から、国も東電もまだ具体的な補償基準を出しておらず、継続的に検討を続けるとしています。
ただ、一時帰宅の機会や財務資料を基に、営業資産についての購入時期や金額、数量などのリストを作成し、被害額を算出するための準備はしておくべきでしょう。
いつまで補償してくれるのか?
現時点で東電が示している補償金の請求対象期間は次のとおりです。
第1回:平成23年3月11日~平成23年8月31日迄
第2回:平成23年9月1日~平成23年11月30日迄
第3回:平成23年12月1日~平成24年2月29日迄
※以後、3ヶ月ごとに案内予定
では、いつまで補償してくれるのかと言うと、国や東電の見解としても明確な期限を発表しておりません。現実的には、避難先や仮設住宅で生活している皆様が、自宅に帰り、元の生活を取り戻して「避難生活が終わった」と言えるのであり、例え具体的な補償金の交渉が始まり一部において避難指示が解除されようと、「問題が解決した」と早計に意思表示すべきではないのです。
請求手続きは急ぐべきか?
「営業損害・財物損害・精神的損害」の3項目以外は、実費負担分の補償の範囲だけとされています。であるなら、この「営業」「財物」「精神的」損害の補償に的を絞って重点的に交渉すべきと考えます。
右記以外の損害項目については、早目に請求手続きをしてもよいと思われますが、この3つの項目については、慌てないで、今後の展開を見ながらじっくりと対策を練ることです。
補償金請求書の書式と請求期限
各避難対象者の皆様の元へは、東京電力より「個人さま」「法人・個人事業主さま」それぞれの補償金請求手続きのための複雑な説明書と請求用紙が送付されました。分厚い説明書は読むだけでも大変であり、被災者側から多くの反発が出ただけでなく、国からも早急な改善命令が出されました。
では、その東電が用意した請求書の書式を使用しなければ補償金を受けることはできないのでしょうか?
原則として、東電の書式により請求された損害内容については、東電側としても早急に対応するとしています。まずは、東電の書式を使って賠償額を計算してみることをお勧めします。
しかし、東電の書式で計算した金額では納得できないと考える場合は、独自に資料を作成した上で、個別に交渉するのも一つの方法でしょう。ただし、請求する金額については、計算根拠をきちんと説明できるように準備しておくことです。
マーケット喪失分についての補償
原発事故発生以前の状況において、事業所は避難対象区域外(例えばいわき市内)にあっても、顧客(販売先)の多くが避難対象区域内の場合、顧客を失うことになっただけでなく、現状では新たな地域での顧客開拓も困難であり大幅な売上ダウンは必死であると考えられます。
事業の性格上、顧客が地域に限定されており、顧客の代替性が困難であると判断される場合、減収分は「間接被害」として賠償の対象となります。ただし、以前と比較してどれくらいの減収となったのか、具体的な数値で提示する必要がありますので、前年と今年の同時期の月別損益計算書を比較して減収額を算出してみましょう。
●営業損害(逸失利益)
=【事故がなければ当然得られたであろう収益‐実際の収益】‐
【事故が無ければ負担していたであろう費用‐実際に負担した費用
拡大する風評被害、間接被害
避難対象区域以外の事業所においても、原発事故が原因と考えられる風評被害や間接被害が発生し、その規模が拡大してきました。
現実に、「福島県の事業所」「福島県産品」という理由だけで取引契約のキャンセルや商品価格の暴落などが発生しています。また、観光地や周辺の宿泊施設、飲食店等では、大幅なお客様の減少傾向にあります。九月に政府がこれら風評被害への対応を明言したことに応える形で、東電側も製造業や加工・流通業、観光業、サービス業などにおける風評被害や間接被害への損害賠償請求の説明会を各地で開催し、具体的な請求受付を既に開始しています。
皆さんの事業において、今回の損害賠償の対象となるのか否かで悩んでいる方は、ぜひ請求手続きを行ってみることをお勧めします。原発事故の賠償内容については、まだまだ明確になっていない部分もあり、今後も、補償対象の拡大や補償期間の延長などが見込まれます。請求してみなければわからない、始まらないことがありますので、取り敢えず請求してみましょう。
※原発賠償請求プロジェクトチームへのご用命、お問い合わせは、エヌエムシイ税理士法人 いわき事務所(電話 0246-23-0006)にて承っております。まずはお気軽にお電話ください。
エヌエムシイ税理士法人便り 原発賠償特別号(1)(2011年10月30日発行分)に掲載 |