1 状況
昨今、若手弁護士の苦境と共に弁護士人口の増加が新聞等のメディアを賑わしている。
これは数値からも容易に裏付けられる。年度別の司法試験の合格者(概数)は、昭和39年より平成二年までの約30年の間、500名で推移していたが、平成11年には1000名と倍増し、平成19年には2000人に至った。
弁護士人口を見ても、10年前(平成12年)には約1.7万人であったが、一年前(平成21年)には、約2.7万人となり(約10年間で60%増)、さらに平成22年12月に司法修習をおえた人数にてらせば、今年、弁護士数は初の3万人台になることは確実で、この15年でほぼ倍増したことになる。しかも、増加分は全て経験10年未満の若手である。若しこれが一つの国家の人口の話であれば、まさに「人口爆発」といった状況である。
2 弁護士増加の目的~競争力欠如の克服
では、政府は、何故にかような弁護士増に踏み切ったのであろうか。それは、世上、良く言われるように、法曹人口の少なさが故に市民に法的なサポートが不足していることへの対策などとは考え難い。そうであれば、弁護士人口が増加したところで、弁護士の需要も同様な比率で増加し、昨今のような若手弁護士の苦境が話題になることもないであろう。
今日の弁護士の大増員は、勿論、地方の弁護士過疎等のへの対策もあるにせよ、それだけでは到底説明できない。既に、弁護士大増員時代には弁護士が存在しなかった殆どの地域で、既に弁護士が進出?するに至っており、現在では、むしろ、東京のような大都市よりも地方での方が新規弁護士の就職難が深刻になっている現状がある。弁護士人口の大増員の目的は、むしろ、小職も含めた日本の弁護士に、グローバルな競争力が無いことが大きいと思われる。
これを具体的に説明すれば、日本の弁護士は、海外に比較すると、遥かに、実社会(企業活動、行政等)への関与、影響力が少なく、社会の複雑化・国際化に対応できる弁護士の数も少ない。
かような日本の弁護士の実情が、ひいては国益を損なう(殊に、日本の企業活動の多くが外国の弁護士にイニシアチブをとられるような状況になってしまう恐れなど)と政府が考えたとしても不思議は無い。
現に、労働事件の専門事務所とされる当事務所にしても、後追い的に既存の労働判例に沿って個々の案件を処理することはできても、率先して今後の労働判例を現在の日本の実情に沿ったものに変えて行くべく、裁判外の活動も含めて尽力するような陣容が揃っているとは言い難く、外国事務にしても、漸く中国の一部(上海と北京)を射程に入れているに過ぎない。小職としても、内心忸怩たる思いである。
3 現在の実績
では、現在の弁護士人口の増加は、現在の日本の弁護士の欠点である競争力の低さに対する処方箋になっているかと言えば、残念ながら、効果は今のところ期待できない状況である。
理由は簡単で、弁護士の数の増加に質の維持・向上が伴っていないのである。ここで「質」というのは、昨今、指摘される若手弁護士の素養不足を言うのではない。既存の法律事務所に入所し、経験ある弁護士より実務的な教育を受けることのできる若手弁護士の数が少な過ぎることが問題である。殊に専門領域を業とする弁護士になるには、専門性を有する法律事務所にて、実務的な修行を積まねば不可能である。
現在の弁護士増員政策の問題は、増員された若手弁護士の教育を、殆ど市井の法律事務所に任せきりにしたところにある。民間企業である法律事務所には経営の都合があり、これだけ急激に増えた若手弁護士を吸収し切ることなどは不可能である。
膨大な数の若手弁護士という大きなリソースをどのように活用するのか。ここに日本の法曹界、ひいては国益の重要な部分の行方が係っていると言って良いであろう。
(髙井・岡芹法律事務所発行・事務所報「Management Law Letter」
二〇一〇年涼秋号・巻頭言に全面的に加筆補正のうえ掲載)
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